暗号に使われた薩隅方言
第二次世界大戦中の1943年にドイツから日本へ寄贈された2隻の潜水艦のうちの1隻、U-511には軍事代表委員の野村直邦中将が便乗することになっていた。当時日本の外務省と在独大使館間の情報交換は、乱数表を用いた暗号電報を使用していた。ところが、戦況の悪化に伴い使用が困難になった。そこで、重大機密事項である潜水艦U-511の出航に関する情報交換に採用した暗号が「早口の薩隅方言」だった。

薩摩出身である東京の外務省本省とベルリンの駐独日本大使館職員が出航前後に十数回、堂々と国際電話を使って話を伝えた。アメリカ海軍情報局は当然のことながらこの通話を盗聴し、さまざまな方法で暗号の解読に努めたものの、最初はどの国の言語かも判読できなかった。世界中の部族の言語まで調べた挙句、鹿児島県加治木町(現・姶良市)出身の日系二世・伊丹明の手により、ようやく薩隅方言だと特定され、会話の内容が解読できたのは録音から2か月後の事だった。