古来から鬼、妖などと呼ばれ人に害をなす異形のものを退治するため、超常的な力を持つ異能者が生まれる特異な家系が連綿と続いてきた。斎森真一と薄刃澄美は異能者の家系同士の政略結婚であったが、長女の美世は異能を持たない。美世が2歳の時、母親が亡くなり、父親が香乃子と再婚し、異能をもった異母妹の香耶が生まれたことから、美世の居場所はなくなる。父親からも見放され、良家の子女としての教育も受けさせてもらえず、虐げられ、使用人以下の扱いを受けながら19歳になった美世は、すべてを諦め笑うことを忘れていた。

美世の理解者であった辰石幸次が婿養子として香耶と婚約したことを機に、美世は異能者の家系で最高の名家とされる久堂家の当主・清霞の婚約者候補として斎森家から追い出される。母親の形見はすべて取り上げられ、美世は唯一の余所行きの着物を身に付け、郊外にある清霞の質素な住まいにたどりつく。通いの使用人のゆり江に案内され挨拶をするが、清霞の美貌に目のやり場に困る。清霞は「ここでは私の言うことに絶対に従え」と言う。美世にとっては今までと同じことであり、「かしこまりました」と即座に了承する。