オランダ特有の事情と他人の為に力を尽くす道徳心を伝える話として「堤防の穴を塞いだ少年」の話を思い浮かべる人は多いだろう。

「偶然、海水が漏れている堤防を発見したオランダの少年が、自らの手を使って一晩中その穴を塞ぎ続け、堤防の決壊を防いだ」というストーリーだ。
しかし、この話は人によって記憶がまちまちで輪郭がよくわからないことが多い。堤防を塞いだのは指なのか腕なのか? 少年は最後死んでしまったのか生きているのか? そして、この話は実話なのか創作なのか…。

その答えはオランダ系アメリカ人のメアリー・メイプス ドッジによって書かれた小説『銀のスケート―ハンス・ブリンカーの物語』の中にある。
同作はオランダで暮らす貧しい兄妹を主人公に、その周りで起こる様々な出来事を描いた少年小説だが、その作中で紹介される『ハールレムの英雄』という逸話がまさに、「堤防の穴を塞いだ少年」そのままなのだ。
ちなみに同作内で少年は「腕で」堤防を塞ぎ、その後も生存している。

この話は、まずアメリカで人気が爆発し、その後日本でも道徳の授業に取り入れられたことから国民の間に急速に広まった。
ただ、日本ではあくまで道徳教材だっため、「少年が悪ガキだった」「堤防を塞いだまま力尽きた」など原作にいくつかのアレンジが加わった。
その結果、巷には数パターンの「堤防の穴を塞いだ少年」の逸話が存在することとなったのだ。