昨年3月、世界に惜しまれつつ107歳でこの世を去った美術家・篠田桃紅。生涯結婚しなかった彼女が人生の伴侶に選んだのは5歳で出会った墨でした。本人が「魔法使いの箒みたい」と語る筆先から生まれるのは、美しきモノクロームの世界。今日の作品『静』は、和紙に墨だけで描かれた桃紅芸術の真骨頂です。
 墨の抽象画、すなわち「墨象」と称される独自の作風は国内外で高い評価を受けていますが、その道のりは決して順風満帆なものではありませんでした。「書」という枠に囚われない自由な作品から見えてくる、彼女のしなやかな生き様とは?近藤サトさんが『静』を有する岐阜現代美術館、巨大な壁画と襖絵のある増上寺を訪れ、その足跡を辿ります。

<Art Traveler>近藤サト
<ナレーター>冨永愛