長女は22歳、次男は16歳だった。暴力団組員の男が2人を拳銃で殺害し、その場で自殺した事件だった。

 事情聴取が終わっても、自宅は男が侵入した際に窓ガラスを割られ、生活できる状態ではない。警察が用意した施設に「一時避難」させてもらった。
翌日には次男、2日後には長女の司法解剖が終わると、遺体を安置する葬儀業者を見つけるよう指示された。深い悲しみの中で、様々な手続きに追われた。新たに借りる家も自分で探すしかなかった。

 二次被害にも苦しんだ。
 組員の男は事件の2日前、市川さんの長男を路上で殴り、けがをさせていた。長男が同僚女性と一緒にいたことから、マスコミは「長男の女性をめぐるトラブル」と報道。ネット上でも臆測や中傷が飛び交った。

 「犯人が悪いのはもちろんだが、一番悪いのは2人を守れなかった父親。一生かけて償え」と書かれたはがきも届いた。
約3週間後、片付けのため初めて現場となった自宅に足を運ぶと、住民から「近所に迷惑を掛けたんだから、まず謝って歩くのが当たり前だ」と怒鳴られた。

 「みんながそう思っていたわけではないことは分かっています。中には気遣って言葉をかけてくれたり、お金を包んでくれた人もいた。でも、あの時期のあの言葉は本当にきつかった」